避妊手術も去勢手術同様、最近の研究結果により段々分かって来たことあります。
今回も引き続きイギリスとドイツにいる獣医の知り合いとアメリカにいるトレーナーにも意見を聞いて、現時点でわかってきていることを参考までに紹介したいと思います。
避妊のメリット
ヒート(犬の生理)を止める事ができる
ヒートは基本オムツをしてないと、犬がいるところが出血で汚れてしまいます。外陰部は腫れポタポタと出血するので大事なカーペットやソファーにつく事もあります。またヒート中は、他の犬オスメス関係なく誘惑する行為をしたりします。他の犬にお尻を突き出したり、自分からマウンティングしたりします。
ヒート期間(2-4週間)は要注意
ヒートは半径数キロにわたり他のオス犬を誘う力があります。例え庭にしっかりした柵があっても、ヒートを察知した犬を止める事は出来ませんので庭に一人にさせない様にしたり色々配慮をしないといけません。場合によっては散歩も当分控えたほうが良いです。
ヒート期間中は旅行に行きにくい
ヒートは大体決まった周期で来ますが、予定とずれる時もあります。旅行に行こうとした時ヒートが来ると、預ける予定だったペットホテルでは受け入れられませんと言われることが多いです。ペットホテルの多くは、ヒート中の犬を預かると他の犬に影響があるので預買ってもらう事が難しいです。例えペットと一緒に泊まれるホテルに宿泊できてもドッグランや他の犬との共有スペースを利用できなくなってしまいます。何よりヒート中の犬は少し情緒が不安定になる事もあるので、できるだけ一緒にいてあげたり休ませてあげる事が必要です。
ヒートサイクルについて 発情前期:発情前期は、犬の体が交尾する準備をしている段階です。平均して約9日間ですが、3~17日間続く場合があります。犬の外陰部は腫れ、血が混じった分泌物でヒートがきたことに気付くことが多いでしょう。ただ多くの犬は気付かないうちに自分できれいにするのでいつの間にか始まっていたという事も多々あります。また、犬が尻尾を体に近づけるような動きをして、飼い主に密着してしがみつくような、甘えているような行動をすることがあります。ヒートサイクルのこの段階では、犬はオスを引き付けますが、オスを受け入れず、オスがマウントしようとすると攻撃的になる可能性があります。 発情期:発情期は交尾期であり、通常は約9日間続きますが、最短で3日間、最長で21日間となる場合があります。この間、血量は減少していきその後止まります。メスはオスを引き付けて受け入れ、排卵は交尾の2~3日後に発生します。犬は排尿する頻度が高くなり、色々なところにマーキングのようにおしっこをして、繁殖する準備ができていることを示す「フェロモンメッセージ」を広めようとする傾向が出てきます。 発情間期; 発情休止期:この段階は「ヒート」の直後に発生し、約2ヶ月間続きます。外陰部が通常のサイズに戻り、膣分泌物が消えるので、犬の体は妊娠に進むか、休息に戻ります。 非発情; 無発情; 発情休止; 発情休止期:発情期は子宮の修復段階3であり、性行動やホルモン行動が見られず、次の発情前期が始まるまでの90日間から150日間続きます。
参考記事:How Long Does a Dog's Heat Cycle Last?
子宮への致命的な感染を防ぐ
避妊してない犬の4匹に1匹は子宮蓄膿症を発症するといわれています。子宮蓄膿症になると細菌感染を起こし膿で子宮が腫れ、唯一の治療法は緊急避妊手術になります。発症した時の年齢が高齢になる程手術のリスクが高まります。多くの犬がこの子宮蓄膿症で亡くなっているのが現状です。健康で若いうちに避妊をすれば防ぐ事ができます。
乳がんのリスクをさげる
2歳半までに避妊をすれば乳がんのリスクが下がるといわれています。
妊娠や想像妊娠を防ぐ
ヒートの数週間後に想像妊娠をする犬もいます。母乳が出て特定のおもちゃやぬいぐるみを子犬がわりにして面倒をみたりします。その光景は可愛く映るかもしれませんが、ホルモンやメタボリズムのバランスが崩れてしまい、健康に害を及ぼす可能性があります。実際に、10歳の犬が想像妊娠をしてから乳がんになり、それが体に転移して亡くなった子もいます。
避妊手術のデメリット
肥満になる可能性 肥満になる可能性が2倍に膨れ上がるといわれています。肥満になると、あらゆる病気(衰弱性関節疾患、関節炎、心臓病、膵炎、糖尿病)を発症するリスクが高まります。肥満になる理由の多くは、避妊手術前と同じ量のフードをあげているからです。避妊後は犬のホルモンバランスが変わりメタボリズムに影響するので、必要とするフードの量が減ります。避妊後は運動とフードを上手く調整しながらやれば肥満にはなりません。
血管肉腫のリスクが上がる
血管肉腫は血管の内側を覆っている細胞に発生するタイプのがんです。生殖ホルモンが発症を多少抑えているといわれていますが、このがんは心臓や脾臓で発症します。避妊手術をしている犬は避妊していない犬に比べて2倍の確率でなるともいわれてます。血管肉腫はどの犬種でもなり得ますが好発犬種は以下の犬種です。
アフガン、
イングリッシュ・セッター、
グレーター・スイス・マウンテン・ドッグ 、
ゴールデン・レトリーバー、
サルーキ、
ジャーマン・シェパード、
ショートヘアード・ハンガリアン・ビズラ、
スカイ・テリア、
スコティッシュ・テリア、
ドーベルマン、
バーニーズ・マウンテン・ドッグ、
ブービエ・デ・フランダース、
フラットコーテッド・レトリーバー、
ブルドッグ、
フレンチ・ブルドッグ、
ベルジアン・シェパード、
ボクサー、
ボストン・テリア、
ラブラール・レトリーバー、
ローデシアン・リッジバック、
ロットワイラー、
甲状腺機能低下症のリスク
生殖ホルモンがなくなると内分泌系に異常が起こり、甲状腺レベルが低下して体重が増加したり薄毛になったりぐったりします。甲状腺サプリをあげれば良くなりますが、一生あげ続ける必要があります。
犬の認知機能障害のリスク
認知機能障害のシニア犬は飼い主や家族に対していつもと違う行動を取ったり、家の中で迷子になったりする事があり、今まで教えてきたトレーニングを忘れてしまうケースもあります。未去勢の犬は生殖ホルモンがあるおかげで発症しにくいといわれてます。
避妊手術のリスク
欧米での調査では、18回に1回は避妊手術でトラブルが発生すると言われてます。 例えば麻酔の拒絶反応や感染症等、ほとんどのトラブルは命に大きく影響はないですが1%の確率で死に至る事もあります。
避妊手術のタイミングを間違えると股異形成(股関節形成不全)、靭帯損傷、骨がん、尿失禁のリスクが増す
生殖ホルモンは犬の骨、関節と内臓を正しく発達させてくれます。早く避妊をしてしまうとその発達に影響を及ぼしてしまう事もあります。例えば早すぎると足の骨の成長スピードが異なり、股異形成と靭帯損傷に繋がる事もあります。それと同時に適正時期に避妊した犬又は避妊していない犬に比べて骨がんのリスクが3倍に膨れ上がると言われています。
また、20%の早く避妊した犬は中年になると膀胱の筋肉が弱すぎておしっこを漏らしてしまう事もあります。これは犬にとっても失敗したという自覚もあり、ストレスにつながる事が多いのです。
最後に、早く避妊してしまうと外陰部の形や大きさを左右する事もあります。そのため外陰部は、本来のように突出するのではなく、体の内側に埋め込まれることもあります。異常な外陰部には、細菌を閉じ込めてしまう皮膚のひだがあり、皮膚炎、膣感染症、または尿路感染症を引き起す可能性があります。
いつ避妊すれば良いの?
犬種に寄りますが基本的には成犬時の体重をベースとして期間が分かります。
成犬時13kg以下の犬は9ヶ月以降にすると良い。
(チワワ、ダックスフンド、ポメラニアン他) 成犬時13kgから22kgの犬は12ヶ月以降が良い。 (柴犬,コーギー、ボーダー・コリー他) 成犬時22kg以上の犬は15ヶ月以降が良い。 (ジャーマン・シェパード、ラブラドール他)
以上を踏まえスカイラボでは繁殖目的が無い場合は避妊手術をお勧めしていますが、血管肉腫のリスクがある犬種は考えてみても良いかもしれません。
手術のリスクを下げるには?
いつも使っている獣医さんで信頼している獣医さんならいいですが、初めて犬を飼った人や初めて動物病院を利用する場合は心配なものです。去勢手術の記事にも同じ内容を書いていますが、もし心配だったら以下のことを聞いてみると良いでしょう。
「全身麻酔はセボフルランあるいはイソフルランを使ってますか?」そのどちらかを使ってる所だったら良いと思います。セボフルランとイソフルランは両方とも吸引するガスで犬の気管に管を通して送り込む手法です。手術中濃度を調整ができ、手術が終わればそのガスは口から出て数分で意識を取り戻せます。
ハロタンを使っているなら注意。意識が戻るまで時間も掛かり肝臓に負担がかかり過ぎるので避けた方が良いです。
全身麻酔をする場合管を気管を通すため鎮静剤も必要になって来ます。鎮静剤は注射あるいは点滴で投与しますが、出来ればプロポフォールあるいはジアゼパムとケタミンの混合剤がお勧めです。ただ残念ながら両方にリスクはあります。プロポフォールは息が止まってしまうケースもあり、ケタミンは痙攣を起こす可能性があります。最も避けたいのはバルビツール酸系の鎮静剤。過剰摂取しやすく肝臓や腎臓に負担がかかり、意識が正常に戻るまで時間がかかります。
落ち着いてる犬は逆にセボフルランあるいはイソフルランを使ってマスクで鎮静させる事も可能です。麻酔と同じガスなので注射や点滴も要らないので負担が軽くなりますが。 ちょっとでも嫌がったりして抵抗すると心拍や血圧が上がり恐怖心やストレスが加わってしまうので、本当に落ち着いてマスクを装着できる子しか出来ない方法です。
以上の事を聞いて見るとちょっとは安心できるかもしれません。
繁殖を考えている場合
もし繁殖を考えている場合はちゃんと計画的に準備をする必要があり、リスクも伴います。興味本意あるいは可愛い子犬を生ませたいだけならお勧めしません。母犬にとって出産は命がけです。
責任を持った繁殖は時間とお金がかかります。コスト面では交配犬にかかる費用や、獣医費(診断、エコー、場合によっては帝王切開、子犬のワクチンや健康診断,緊急時等)、フード代、新しい飼い主を見つける費用等です。販売という形で新しい飼い主を見つける場合は動物取扱責任者が必要となります。責任者がいない場合は自ら資格をとる必要があり、資格を取る為の時間と費用、販売登録の費用がかかります。
最悪の場合、愛犬が出産時または出産後に亡くなってしまう可能性もあります。今まで明るく元気に過ごしてた子が飼い主の意思で出産させて亡くなるのはお互いにとって残酷でとても悲しいことです。 また、無事に産んでも子犬に障害があったり問題を抱えてる事もあります。残念なことに子犬は力尽きて亡くなったり、生き延びても新しい飼い主が見つ借りにくいのが現実です。例え何にも問題なく産まれてきても、数日たったら死んでしまう子犬衰弱症候群(fading puppy syndrome)もあります。子犬が巣立ってからも、ちゃんと愛情を持って面倒を見てくれているか、脱走してないか、心配になる事もあるでしょう。
避妊手術に関して色々と不安な点等ありますが、犬と向き合って犬の体調等を見ながら決断されるのが一番だと思います。もし手術をするとなったら、その子にあった時期を獣医さんや家族と納得行くまで相談しても良いと思います。スカイラボでは避妊は病気予防等のためお勧めしていますが、どちらを選んでも間違いではありません。
無理に決断して後悔するより、時間を掛けて決断して愛犬との時間を大切に過ごしてください。
参考記事等:
Neutering Dogs: Effects on Joint Disorders and Cancers in Golden Retrievers
Long-term health effects of neutering dogs: comparison of Labrador Retrievers with Golden Retrievers.
Our Dogs, Ourselves: The Story of a Singular Bond
vet AUDIT
New Report on Complication Rates for Neutering Surgery in Dogs and Cats
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